GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
引き続きEUの話題。先週、加盟国の意見が割れていると書いたシンジェンタ社の害虫抵抗性GMスイートコーン(Bt-11)の輸入を認めるべきとする欧州委員会の勧告は、12月8日の食物連鎖及び動物保健常設委員会において、特定多数の賛成票を得られず合意が成立しなかった。
参照記事
TITLE:No lifting of Euro GM ban, yet
SOURCE:The Scientist, by Andrew Scott
DATE: Dec. 11, 2003
国別の評決と15カ国が各々規模に応じて持つ票決権(特定加重多数決 QMV: Qualified Majority Voting)は、以下の通り。賛成はフィンランド(3)、アイルランド(3)、オランダ(5)、スペイン(8)、スエーデン(4)及び英国(10)の6カ国(計33)。
これに対し、反対はオーストリア(4)、デンマーク(3)、フランス(10)、ギリシャ(5)、ルクセンブルグ(2)及びポルトガル(5)の6カ国(計29)。棄権がベルギー(5)、ドイツ(10)及び現在議長国のイタリア(10)の3カ国(計25)。全87票のうち、71%を越える62票が特定多数となる。
この結果、本件は来年1月に開催される見込みの閣僚理事会における特定多数決投票に委ねられる。しかしながら、状況的に閣僚理事会での逆転は難しそうだ。閣僚理事会が3カ月以内に合意できなかった場合は、勧告当事者の欧州委員会が最終決定を下すことになる。
EUがモラトリアム解除の条件として位置付ける表示やトレーサビリティに関するGM食品新規制の発効が、10月18日の官報告示以後6カ月以内と原則的に定められていること及び米国のモラトリアムに対するWTO提訴にパネルが設置された8月29日から最終報告が通常1年と言われる(本件は18カ月くらいかかるだろうとの説もある)ことなどから、このあたりのタイミングは微妙だ。
ここ当分は、WTO制裁回避に向けて科学的安全性を論拠とした欧州委員会の必死のセービングが続くと見られるが、欧州食品安全機関(EFSA: European Food Safety Authority)からも、12月4日のモンサント社の除草剤耐性GMトウモロコシ(NK603)に続き、次々とGM農産物の安全性評価結果が公表されると伝えられている。
参照記事1
参照記事2
TITLE:EU to assess safety of three more GM foods
SOURCE:Reuters
DATE: Dec. 11, 2003
来年の1月から2月にかけて、モンサント社の害虫抵抗性トウモロコシ(MON863)とそのハイブリッドタイプ(MON810)、同社の除草剤耐性ナタネ(GT73)の3品種がラインアップされているという。迷走する政治的路線を離れた科学的ステップの方は、どうやら押せ押せの状態である。
さて先週の日本では、「週刊新潮」12月18日号のGMO関連記事が目を引いた。「『絶対安全』でもサラダ油の原料は『組み換え大豆』と大声で言えない『遺伝子食品アレルギー』」と中吊り広告の惹句はおどろおどろしいが、読んでみるとしごく真っ当な内容なのにまず驚いた。
これが5年前だったら取材拒否だったかもしれない一流食品企業群が、安全性が確認された遺伝子組み換え原料は使用していると、皆一様に回答している。時代の変化と識者の方々の「食品安全性の問題はもう終わっている」という見解(「日経バイオビジネス」11月号特集「だからGMOは嫌われる」)を裏付ける結果となった。
バランスを取るためにか、一部反対派の方たちのコメントも載せられていたが、例によって総論と各論との意図的混同とか、都合に合わせた情報の部分的摘み食いが目立った。使い古された手法なのだが、「遺伝子組み換え食品」を「自動車」に置き換えてみるとかなり分かりやすいので試みてみよう。
「F1カーはスピードが出過ぎるから、自動車はすごく危険だ」(規制があって公道は走りません)。「ロードスターは二人しか乗れないし荷物も積めないから、自動車はホントに不便だ」(7人乗れて荷物も積めるワンボックスも売っています)。
こうして並べてみると、「自動車」なら誰も騙されないのに「遺伝子組み換え食品」だとこの手の論法がまかり通ってしまうのが、いかにも面白い。筆者は、5〜6年前から社会科学者や心理学者もGM論議に参加してもらうべきだと主張してきたが、是非その辺りの解析もお願いしたいものである。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)