あずさの個別化栄養学
食べることは子どものころから蓄積されて、嗜好も体質も一人一人違う。その人その人の物語に寄り添うNarrative Medicineとしての栄養学を伝えたい
食べることは子どものころから蓄積されて、嗜好も体質も一人一人違う。その人その人の物語に寄り添うNarrative Medicineとしての栄養学を伝えたい
食生活ジャーナリスト、管理栄養士。公益社団法人「生命科学振興会」の隔月誌「医と食」副編集長
働くママにとって、こどもとの時間はとても貴重なもの。でも、仕事が終わり、帰宅して、ご飯を作り、お風呂に入れて、読み聞かせして、就寝、の毎日の繰り返しでは休日以外こどもとの時間がとれないのが現実だ。それならば、と、わたしはなるべく料理はこどもたちと一緒にすることを心がけてきた。もちろん残業し、帰宅して、そんな余裕もない時もあるが、料理のお手伝いをしてくれると、ママは助かるし、こどもも楽しそう。
メニューが素晴らしいものでなく、ただのご飯とお味噌汁だったとしても、こどもがつくってくれると優しい味になる。きっと一生懸命さが純粋に味わいとなるからだろう。
キッチンが散らかったり、ご飯ができるまでに時間がかかったり、いろいろ面倒なことはあるのだが、慣れてくると、こどもだって、作業効率は上がるし、いろいろできるようになるから頼もしい。
朝食づくりを手伝って朝食摂取を促す取り組み
さて、不規則な生活から、健康を害すことはよく知られるところだが、その生活習慣はいったい、いつ形成されるのだろうか。ここでは、朝食の欠食を例に挙げて考えてみたい。
H24年国民健康・栄養調査結果1の概要によれば,朝食欠食は思春期以降増加がみられ20歳代で男性29.5%,女性28.8%と最も高くなる。
幼少期や学童期にはきちんと朝食を食べていたはずなのに、成人して欠食をしてしまうのはなぜだろう。それは、幼少期や学童期に朝食の重要性に対する本人の意識や朝食準備のスキルが育まれていなかったのではないかと同志社女子大学の小切間美保氏は考えた。
そこで、小学校が家庭と連携し、朝食摂取のためにこどもたちに朝食づくりのお手伝いをさせる試みを行った。朝食摂取を習慣化するためには調理技術の習得が必要になる。こどもたちはどんな調理作業ならすぐにできるのだろうか。「洗う」、「切る」、「皮を剥く」、「火を使う」、「盛りつける」、「食器の準備」「テーブルの上を拭く」などなど、お手伝いをしてもらうポイントは多々あるのだが家庭との連携が必要だ。
そこで小切間氏らは、学校側とともに保護者に理解を求め、京都市のR小学校で2009年から2011年まで3年間「朝ごはんプロジェクト」と銘打って(実際のキャッチフレーズは保護者も楽しくなるように「ステキ!早起き・朝ごはんプロジェクト」にしたそう。)、連続した平日4日間を1期間とし、年に4回計12回の食育介入を行った2。
結果はというと、1年目はイベント効果で児童が頑張りすぎてしまい、すぐに疲れてしまった。しかし、2年目から楽しく取り組む工夫を凝らした結果、朝食作りを継続する児童が増加。朝食内容にも野菜を摂取する傾向がみられた。加えて、感想に家族への感謝の気持ちを表す児童や保護者からは「子どもが楽しそうにしているのでサポートしたい」、「良い取り組みなので継続して欲しい」との意見も多く、家庭のほうから自発的に行いたいと思うような、思わぬ効果も出てきたとのこと。
さらに、それらの行動を支えたのが食育ブックである。当初(1年目)は朝食のための料理レシピが中心だったが、その後改良した小冊子は、①料理を始める前に、②お買い物に行こう(社会)、③食べ物サイエンス(理科)、④大切な人におもてなし(道徳)、⑤世界の食べ物を知ろう(外国語)、⑥バランスのよい食事をしよう(保健)、で構成され、多角的に教育的思考が散りばめられている(写真2)。基本的な調理作業のアドバイスに加え、たまごのたんぱく質凝固は理科、世界の伝統料理については外国語活動というように各教科との連携が示されているのだ。
このように、各教科のなかに食育を取り入れてしまうことで、教科名に「食育」を創らずとも「食育」が実践できる仕組みができている。
素晴らしい取り組みなので、今後多くの学校で、どんどん取り入れてほしいと思う。
また、小切間氏らが行った食事の準備から後片付けまで「こどもが楽しいのはどんな時か」の調査では、調理を覚え、いろいろできるようになった時や、食べる人が喜んでくれた時よりも「家族が一緒の時は楽しい」という結果だったこともわかった。 「大人が考えているこどもが楽しいだろうという内容」と、「こどもが考えるそれ」とは必ずしも一致しているわけではないことにも気がつかされる。こどもは内容やスキルよりも家族と一緒にいることを望んでいた。
朝食摂取の重要性
また、朝食摂取の重要性はいろいろな観点から考えられる(表1)。
上記6項目にまとめてみたが、朝食摂取を習慣化することは、生涯を通じて意義が大きいものばかりだ。
こどもと一緒に楽しむ朝ご飯
食事の時間で大切なことも「楽しい」ことだとわたしは思う。楽しいときにはおいしく感じるからだ。「楽しいは、おいしい!」であり、「おいしいは、楽しい時と、そうでない時がある」と常々感じている。
「楽しく食育」の著者である砂田登志子氏は食の重要性をマスコット人形や漢字を使ってこどもたちに説いている。「フードファイト(=食戦)」、「フードチョイス(=選食)ということばを用いて、何(食品)をどう選び、どう口に入れるのかの大切さを啓発してきた。そんな砂田氏が大切にしているのはやはり「楽しい」ということだ。
少し昔の話になるが都内の児童館で砂田氏を招いて食育体験を行ったことがある。そのとき、何の脈絡もなく「あなたはたべものでできている」とお話し始めた砂田氏に、こどもたちは釘付けになった。欧米の食育ポスターを見せながら“チョコレートよりおむすびを”の話だったと思うが、こどもは目を輝かせ楽しそうだった。大人が楽しいと感じることと、こどもが感じることはやはり少し違った。砂田氏の活動はイートライトジャパンのウェブサイトからみることができる。
さて、楽しくといっても、やったことのない人たちはどうすれば楽しくなるのかが分からないという声もきく。確かに離乳食を神経質につくっているママたちをみているととても楽しむ余裕はなさそうである。そこで紹介したいのがフードコーディネーターのサゴイシオリ氏である。サゴイ氏は「こどもといっしょに楽しむ料理教室ZOO」を主宰し、簡単に楽しみながらできるお手伝いのポイントを紹介してきた。
サゴイ氏の活動は、家族と一緒の時が楽しいと感じるこどもたちの真髄をついている。そして、そこに一緒にいるだけではなくて技術というかコツをプラスしているのだ。
サゴイ氏曰く、お手伝いが大げさにならず、大人も張り切らないですむのが「朝ご飯」と「おやつ」の時間だという。「料理はなにも高価な食材で難しいレシピで創るものではない。あるものでちょっと工夫すればステキにできるし、ご飯作り中に、こどもがゲームをして待っているのはもったいないこと。こどもも調理に参加すれば、こころが満足するし、親は親で忙しくても癒される」のだと。
なるほど本当にそう思う。すぐに大きくなってしまうからこそ、貴重なこども時代。時間がとれないのであれば、まずは朝ご飯作りからはじめてみてはいかがだろうか。
朝ご飯をつくって一緒に食べると、自然に会話が生まれる。そして、帰宅して、夕ご飯の際に、今日一日どうだったのかの話にもつながっていく。食卓は大事なコミュニケーションの場でもある。
大人になってから習慣を変えるのはなかなか難しい。食事のお手伝いは将来、自分で健康を培う力を身につける第一歩であり、楽しい時間が豊かな感性と健やかな精神、身体をはぐくむ。
また、こどもにとってのお手伝いは、小さくたって、家族の一員である自分の存在価値を認識する素敵なひとときだと思うのである。
食生活ジャーナリスト、管理栄養士。公益社団法人「生命科学振興会」の隔月誌「医と食」副編集長
食べることは子どものころから蓄積されて、嗜好も体質も一人一人違う。その人その人の物語に寄り添うNarrative Medicineとしての栄養学を伝えたい