科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

多幸之介が斬る食の問題

前回の訂正記事の波紋から見えてきたもの

長村 洋一

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 前回(3月)は「なぜ生協商品に大きな問題が集中するか」という表題で、リスクコミュニケーションにもう少し科学的思考を持っていただきたいという趣旨の内容を最初に出したところ、直ちに“生協を十把ひとからげにしないで、どの生協が何をやっているか良く調べてから論じてください”というご指摘を編集部および私に直接または大学を介してご指摘を受けた。そこで、直ちに調べなおし編集部のご厚意により「(訂正)リスクコミュニケーションには科学的思考をもって」として原稿を訂正して再掲載させていただいた。この、最初の記事と訂正記事の両方を読まれた方、および後の訂正記事のみを読まれた生協の方と生協活動に何らかの関心をお持ちの方から幾つかのコメントをいただいた。このシリーズの掲載をお引き受けしてからこんなに多くのコメントをいただいたのは初めてであった。そこには私が「生活と自治」の問題として取り上げた同じ号の中の「Topics」にもう一つの問題になる記事があったからと推測するとともに、私からみると良識ある生協の方が直面しておられる苦悩の一面が見えてきた。

 まず、訂正前の記事を読まれた方から頂いたご指摘は、生協にもいろいろあり、私たちの生協を「生活クラブ系」と同じように見ると間違いである、または同一視しないで欲しい、といった内容であった。こうしたご指摘に応じて訂正記事を書かせていただいたわけであるが、訂正記事が出てからも幾つかのコメントをいただいた。その一つは、生協はかつて「無添加、無農薬」を安全のための最高の手段と考えていて、そのように大きな運動を展開していたが、今は批判的な人も多くいます、というコメントであった。

 訂正前、後の両方の記事を読まれた方の少し乱暴な意見としては、生協の方々はほとんどの人が「無添加、無農薬」で騒いでいるのだから訂正しなくても良かったのではというコメントもあった。少し前までは私も生協を十把ひとからげで見ていたので、このコメントをくださった方のお気持ちはよく理解できたが、今回の訂正記事を契機に調べた結果からはとてもうなずけなかった。この方には、生協はよく調べてみると今大きく変わりつつあるので、一刀両断にはゆかないと思うという最近の私の考えを返事させて頂いた。

 ところで、今回問題とした「生活と自治」の同じ号の「Topics」に私を糾弾した記事が「問われる食品安全委員会の見識」として掲載されていた。記事の内容は、昨年11月に岐阜県と食品安全委員会との共催で行われた講演会において、一昨年から時々このシリーズに私が書かせていただいていたような食品添加物に関する話をしたが、その内容が、食品添加物を擁護する、非常にけしからん講演であったという非難であった。そして、私の発言が間違っているのに、食品安全委員会はそれをお詫びも訂正もしないということがもっとけしからん、という全体的なまとめとなっている内容であった。

 この同じような批判は日本消費者連盟発行の「消費者レポート」2月7日号にも掲載されていて、「生活と自治」の記事はそのダメ押しのような内容であった。生協関係者から頂いたコメントには、この記事のことにも同時に触れてあり、先生の最後に書かれている「非科学的なリスクコミュニケーションしかできない人の書籍が健康食品管理士によってひどく問題にされていることと、そうした著者をオピニオンリーダーとして担いでいる集団が本当に国民の安全・安心を確保できるかは歴史の網の中で浮き彫りになってくると確信している」という文章は、同じ号に掲載された先生の批判記事と比較すると大変印象深いものがあります、と書いてこられた。

 FoodScienceの読者かどうかは知らないが、私の食品添加物に関する講演を聞かれた方で、消費者レポートを読まれた生協のリーダー格の方から「先生、消費者連盟もひどいですね。こんな旧態の誤謬を撒き散らす団体は大変迷惑です。これに同調して、コープ○○はおかしいとなる経験はよくありました。今後もあるでしょう。先生、あんな批判など無視してがんばってください」というメールをいただいた。

 このほかにも内容は似ているがニュアンスが少しずつ異なるコメントをいただいている。生協関係者から頂いたコメントはいずれも、「無添加、無農薬」を金科玉条とした考え方に批判的な意見をお持ちの方であった。しかし、今回浮き彫りになってきたのは、この文章の最後に引用させていただいたリーダー格の方からのメールに見られるように、旧態依然とした勢力と科学的なリスクコミュニケーションに立脚して物事を進めようとしている方々とのギャップが、大きな問題として内在していることである。

 いずれにしても前回の訂正記事から見えてきたのは、このFoodScienceをお読みの読者の多くが想像されている旧態依然とした生協は、大きく脱皮しようとしている動きがあるということである。それと同時に、この読者となっておられる生協の方々には非常に高い見識をお持ちの方が多くおられるということである。私は頂いたコメントの文章から、こうした方は恐らく生協の中では少数派に属され、風当たりの強い場所におられると邪推いたしており、その主義主張を貫かれようとする姿勢にエールを送らせていただかせていただくものである。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)