GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
2010年3月2日、前月発足したばかりの新欧州委員会は、独BASF社の工業(製紙と接着剤生産)用GMジャガイモAmfloraの域内栽培とでんぷん副産物の飼料への利用並びに米Monsanto社のGM掛け合わせトウモロコシ3系統(MON863xMON810, MON863xMON810xNK603およびMON863xNK603)の食品・飼料への使用と輸入についてデフォルト承認した。Amfloraは、フードチェーンへの混入可能性を考慮してEFSA(欧州食品安全機関)が食品安全性も評価済みだが、意図的食品利用は認められていない。
TITLE: Commission announces upcoming proposal on choice for Member States to cultivate or not GMO’s and approves 5 decisions on GMO’s
SOURCE: European Commission, DG Health and Consumer Protection
DATE: Mar. 2, 2010
注目されるのは、98年から唯一域内商業栽培が認められているGMトウモロコシMON810系統(09年6月30日、承認期限切れに伴い再承認)に続き、実に12年振りにEU域内栽培認可(10年間)が与えられたAmfloraだろう。
07年7月16日のEU農業閣僚理事会における域内栽培承認の合意失敗や、Amfloraの商品概要、EFSA(欧州食品安全機関)が抗生物質(カナマイシンとネオマイシン)耐性マーカー遺伝子についてヒトへのヘルス・リスクはないと繰り返し意見表明(最近では09年6月)しているもかかわらず、Greenpeaceなどがこれらを理由に現在も反対していることなどは、当時の本稿 が詳しいので、そちらをご参照頂きたい。
BASF社が、Amfloraの認可申請に着手したのは96年、EUへの栽培承認申請が提出されたのは03年、EFSAの環境安全性評価完了が05年であった。98年から04年まではGMO承認モラトリアムという不幸も重なり、その後も度重なる承認作業の遅延に苛立った同社は、08年7月に欧州裁判所に対し職務怠慢を理由に欧州委員会に対する訴訟を提出した。
BASF社は、Amfloraの承認遅れは、域内農家に毎年1億ユーロ(約124億円)の損失をもたらし、同社は特許使用料などで毎年2000万〜3000万ユーロ(約25億円〜37億円)の逸失利益があったと主張している。
ようやく得られた商業栽培認可により、今年はチェコ共和国の150ha(ヘクタール)を含めドイツなどで約250haが栽培される予定であり、11年にはスウェーデンとオランダなども加わるであろうとBASF社は述べている。
ところで、上記に引用したリリースでお気づきのことと思うが、この栽培承認は欧州委員会のJohn Dalli保健・消費者政策委員(マルタ)が率いる保健・消費者総局から公表されている。従来は環境総局の専権であったのもが移譲されたからだ。
そして、言うまでもなくこの承認を下支えしつつ批判の風当たりを弱めているのは、各加盟国に GMO 栽培に対する選択権を与える提案を夏までに出すという欧州委員会の計画だろう。一種のトレード・オフであるが、このことは前々回の本稿 で触れた。
08年の食糧危機を契機としてEU指導部内ではGMO再評価が急速に進んだ。加盟国でも英国政府が強く反応し、GMO受容に向けて 政策転換 を大車輪で進めている。一方、MON810を栽培規制してしまったドイツ、フランス、ギリシャ、オーストリア、ハンガリーおよびルクセンブルグの6カ国などからの抵抗も続く。欧州委員会の舵取りが注目される所以である。
<あとがき〜The End of the GMO World>
おそらく、いまとこれからが最も必要とされるであろう時に当たって、FoodScienceのサイト閉鎖は残念に思いますが、ビジネス上は仕方ないことなのでしょう。
2003年5月のFood・Scienceのスタート以来6年10ヶ月にわたり約280本を書き継いできました。一般紙があまり取り上げない国際情勢を紹介しながら、科学技術は本来ニュートラルなものであり、この世に100%のリスクもベネフィットもない、二元論は視野狭窄と思考停止を招くだけだろうという基本的な立場から考察してきました。
まるで大勢の人々の釣り糸が絡まりあってしまったお祭り騒ぎのようなGMOを巡る諸事情と、そこから生じる諸々の現象やリアクションは常に複雑なものであり、根気よくそれらをときほぐすのに苦労もしました。先ず、長年にわたるFoodScience読者の皆様にお礼申し上げます。この道に引っ張り込んだ日経BP社医療局主任編集委員宮田満氏、ずっと支えて下さったFoodScienceウェブマスターの中野栄子氏、担当頂いた日経BP社歴代アシスタントの皆さん、そして常に刺激を与えて下さったFoodScience執筆陣の皆様にも深謝します。
2010年3月31日のFoodScienceのクローズに伴いGMOワールドも本日で一旦終了しますが、GMOを巡る世界の動向については、日経BP社の「バイオ年鑑」に年間ログを(実名で)執筆しており、この問題に興味のある方はそちらをご参照下さい。