GMOワールドⅡ
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている
2013年10月16日にNew Scientist誌が掲載したゴールデン・ライス共同開発者であるドイツIngo Potrykus教授 へのインタビュー「Golden Rice creator wants to live to see it save lives」を(上)に続けて読んでいる。Potrykus教授は、the Golden Rice Humanitarian Board委員長で、元スイス連邦工科大学(ETH) 植物科学教授。
Q:英国の環境大臣Owen Patersonが、ゴールデン・ライスへの反対は邪悪であると攻撃することで、このほど討論に加わりました。これは、ゴールデン・ライスのために潜在的な精神的支援を獲得する道義上の転換を促すでしょうか?
A:不幸にも、ヨーロッパには遺伝子組換えに対する巨大な反対があります。ですから、この勇敢な英国の大臣は多くの敵を作るでしょうが、彼は有力であるどこからでも支持するに値します。おそらく私たちが英国における転換点に達したと私は楽観的であり、何かが起きるでしょう。しかしながら、「邪悪な」という非難がヨーロッパにおいてGreenpeace支援者の態度を変えることを私は信じません。Greenpeace創設者のPatrick Mooreさえ今やゴールデン・ライスを支持して、それに反対するGreenpeaceを人類に対する犯罪だと告発しましたが、それを誰も気にかけません。
Q:GreenpeaceとFriends of the Earthのような他のグループが、これほどまで頑なにゴールデン・ライスに反対するのはどうしてですか?
A:彼らは極端な主張をして物事をケースバイケースでは判断しないのが、政治的により効果的であることを悟ったのです。
数年間にわたりGreenpeaceとハイレベルな議論を私はしてきましたが、いかなる遺伝子組換え生物(GMOs)も、公共の利益のために使える可能性があるものでさえ、彼らは容認できないことが明白になりました。
彼らにゴールデン・ライスに対する見解を変えるよう働きかけても、彼らの回答は同じです:彼らは GMOs に反対です。それは職業であり、非常に成功しています。
Q: GMOs に対する公共の反対を、これらのグループは利用しています。なぜこのような激しい反対があるのでしょうか?
A:1990年代の初めから、 GMOs が環境と消費者にとってたいへん危険であるというマントラを、殆どのメディアは繰り返し唱えました。このマントラは、資金力を持ち組織化された反 GMO圧力団体によって絶え間なく燃料補給されます。
反 GMO運動の最も巧妙なトリックの1つが、 GMOsをMonsantoや他の多国籍企業に密接に関連づけることです、Monsantoには味方がいませんから。金儲けを目的にしない理想主義者によって動かされているという認識により、人々は感情的に多国籍企業に反対して有機農法に賛成するから、この戦略には何百万人もの支持者が保証されます。
Q:あなたは、ゴールデン・ライス論争にさぞやがっかりされていることでしょうね・・・
A:私は大いに落胆しています。多くの子供たちと妊婦を救うことができる無償の技術を提供しようとしているのに。
ゴールデン・ライスが考案されてから、ビタミンA欠乏で毎年250万人の子供たちが亡くなったと推定されます。毎年50万人が盲目になり、そのうちの70パーセントが亡くなります。ゴールデン・ライスが、彼らのすべてを救っただろうとは言えませんが、いかなる遅れも多くの不必要な死か盲目の子供たちを意味します。
Q:ゴールデン・ライスの現在の状況はどうですか?
A:最近フィリピンにおいて、4つの農学試験栽培の1つが、収穫直前に襲撃されました。しかし、残っている試験栽培からのデータが、規制当局による栽培認可を得るために十分足りうることを私たちは希望しています。
Q:もし認可されたなら、このコメは効果をもたらすでしょうか?
A:それが使われるや否や、大きな効果を挙げるであろうことを私はいささかも疑いません。ビタミンA欠乏に対処するのに、これより強力な方法を私は思いつきません。
Q:あなたは生存中に、あなたのプロジェクトが実現するのを見られると思いますか?
A:最後までそれをやりとげるために長生きしたいです。これを始めたとき、私は50代半ばでした。再来月に私は80歳の誕生日を迎えます。(抄訳終わり)
上記記事中でもすべて触れているが、ゴールデン・ライス論争は、ここ3カ月間にわたり月1回のペースで、良くも悪くも極めて高い可燃性の燃料を補給されてきた。
先ず、8月8日に、フィリピンにおいて国際稲研究所(IRRI)とフィリピン稲研究所(PhilRice)が進めていたゴールデン・ライスの試験圃場が破壊された。この顛末は、時の人であるMark Lynasの現地レポートにも詳しい。
ともかく、この事件を契機として破壊行為を怒る科学者たちを中心に、ゴールデン・ライスを巡り活発な議論が起きた。テーマは、GM作物と途上国援助までに及び、例えば、8月24日のNew York Times紙にAmy Harmon記者が優れた評論を発表している。
続いて9月17日になると、タフツ大学が提携していた中国におけるゴールデン・ライス学童治験で、一部の被験者や親に事前告知しなかった倫理違反があったことを認めて謝罪する。この件は、2012年8月に中国でGreenpeaceが告発し、12月には中国疾病予防管理センター(CDC)が、治験に関係した研究者たちを解雇処分していた。
そして、英国では10月13日付Independent紙で、Owen Paterson環境大臣が、ゴールデン・ライスなど途上国へのGM作物導入への反対は「邪悪」だと発言し、英国内外で現在も大いに物議をかもしている。
なぜ、これだけ騒がれるのか?米国のサケ、北米と豪州のコムギ、中国のコメ、インドのBtナスと並べてみると、純食用GM動・植物上市のハードルは極めて高いことが分かる。用途が限定的で万人向けではないにしろ、人道的な大義という翼を持つゴールデン・ライスには、このハードルを飛び越えるパワーがある。しかも、多国籍企業の関与は最少(Syngenta社の開発技術は無償提供されている)だ。反対派は、批判すべき論拠を欠く。
そして、実現が足踏み状態の消費者に直接的利益をもたらす、いわゆる第二世代GM作物(主要穀物として)の有力な一番手となる。これが「トロイの木馬」だとして、食の量や質が満たされている国々に暮らすGreenpeaceなどが、難癖をつけて目の仇にする理由である。Potrykus教授やゴールデン・ライスを必要とする途上国の人々にとっては甚だ迷惑であり、不幸なことだろう。
Potrykus教授は、「Greenpeaceは最初から反対だった」と述べている。実は、1990年台末だったと思うが、ヨーロッパでGreenpeace広報担当の女性が「子供たちを救うゴールデン・ライスだけには反対しない」と真っ当なコメントを出した。しかし、「GM作物・食品を世界から根絶やしにする」というGreenpeaceのセントラル・ドグマ(当時はそれほど明確ではなかったが)から、この鬼の目にも涙的発言は直ちに取り消されてしまった。
今回のインタビューでは強く述べてはいないが、Potrykus教授は過剰規制に対しても、「不必要な死か盲目の子供たちを招くいかなる遅れ」の一つとして、憤慨している。これに関しては、2007年8月の独立行政法人農業環境技術研究所「農業と環境 No.88」に、白井洋一氏が「GMO情報: ビタミンA強化米 ゴールデンライスの開発阻害要因」として、紹介している。
79歳Potrykus教授の「生きているうちに、(子供たちが救われる)結果を見たい」には、Galileo Galileiの「それでも地球は動く」とも通じる科学者の悲痛を感じてしまう。
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている
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