科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

石島 藤夫

農薬メーカーに37年間勤務し、現在は(公社)緑の安全推進協会で、農薬の使用者等を対象とした講習会や電話相談などを担当している

農薬の今3

農薬の適正使用を推進する

石島 藤夫

キーワード:

<農薬製品の安全確保について>

 農薬は農薬取締法に基づき国の登録を受けなければなりません。登録されて始めて、製造(輸入)・販売・使用が出来ます。この登録のために、農薬会社は、多くの試験(病害虫などへの効果、薬害、人畜毒性、環境影響などに関する試験等)を実施しなければならず、その試験結果を付けて登録申請し、国の審査に合格することが要求されます。これらの試験の詳細は、独立行政法人農林水産消費安全技術センターのホームページに公開されていますので、詳しくはそれを参照願います。
 なお、登録の有効期間は3年間であり、継続して販売するためには、再登録をする必要があります。更に、この3年間に新しい科学的知見が明らかになった場合、再登録の際には、それについての試験成績の提出が求められます。

 一方、農薬の生産工場においても、生産品への品質管理は厳しく実施され、規格を満たしていない限り製品として出荷されません。更に、この生産管理が適正に実施されていることを第三者が評価出来るものにするために、現在は殆どの農薬会社の工場が、品質に関する国際規格(ISO9001)を取得して、第三者機関による定期的な審査を受けています。この登録制度や農薬会社の厳しい品質管理の結果として、市販される農薬製品の品質や安全が確保されることになります。

<農薬の適正使用について>

 農薬取締法では、農薬の登録時に、製剤毎に「農薬使用基準(安全に使用出来る基準)」を定め、使用出来る作物、使用量、使用時期、使用回数、使用方法等を明確に規定し、その内容を農薬の製品ラベルに正確に記載することを登録者に求めています。農薬使用者はその「農薬使用基準」を守って使用することで、使用者として適正使用に関する責任を果たすことが出来ます。即ち、使用者は、「ラベルを良く読んで正しく使うこと」が責務であり、その正しい使用が、使用者自身、周辺住民及び環境等の安全確保に繋がる訳です。それでは、使用実態はどうでしょうか。これについては、毎年農水省が調査し、結果を公表しておりますので、その結果を以下に示します。

 平成25年度の農水省の調査結果(平成27年3月発表、出典は下記)によれば、全国3,928戸(農薬総使用回数31,977件)のうち、不適性な使用が認められたのは、6戸(0.15%)であり、ほぼすべての農家で適正に使用されておりました。また、残留基準値を超えた農作物の検体数も928検体中1検体でした。
出典:農林水産省ホームページ 「国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況
調査結果について」

<食品(農産物)の監視について>

 これについて触れることは、前述した一般の方々からの相談の「食品中の残留農薬による健康影響への不安」への回答になると思います。
 収穫後の農産物は食品扱いになるので、食品衛生法により管理されます。この法律に基づいて食品中に残留する農薬の基準を定め、毎年残留実態を調査し、その結果を公表しています。また、都道府県や生産団体などが独自の調査を実施しています。

 厚生労働省による輸入品を含めた流通農産物中の残留農薬調査結果(平成24年10月発表)を以下の表に示しますが、農薬の検出割合も基準値を超えた割合も例も極めて低いことから、わが国の流通農産物における農薬残留リスクは殆どないといえると思います。なお、残留基準は食品としての規格として決めたものであり、万一それを超過したからといって、直ちに食べた方が危険に陥ることではありません。残留基準値自体も、人間が同じ食品一生涯食べることを想定し、さらに動物試験から得られた値に安全率も見込んで決めています。従って、まれに残留農薬基準値を超えた農作物を口にしてしまったからといって、健康被害が出ることはまずあり得ません。
table出典:厚生労働省のホームページ「食品中の残留農薬検査結果の公表について(平成17~18年度)」

<最後に>

 上記のように、農薬は「消費者、使用者、農作物、環境」への安全性の確保を図られています。農薬については公開されている情報も多く、誰でもそれを読むことが出来ます。農薬に直接係わらない皆様にも、正確な情報を見抜く力を養い、科学的な根拠のない情報に振り回されることなく、農薬への正しい理解と判断力を持って頂きたいと願うものです(緑の安全推進協会相談室長、石島藤夫)。

<お知らせ>
 農薬について、気軽にご相談ください。疑問にもお答えします。電話番号は03-5209-2512。相談受付時間は午前9時から午後5時まで (土、日、祝祭日は除く)です。

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石島 藤夫

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